東日本大震災から10年
東京から東北の被災地に仕事で向かったのは2011年の8月。その時の事を書いて世田谷文学賞で一席を受賞した詩を公開します。転載等の際は一度ご連絡ください。中川究矢。
振り返る場所がない
駅前だった場所の小さなロータリーに
燃え残った一本の木が骸骨のように残された
一台のタクシーで
運転手がドアを開け放しスポーツ新聞を読んでいる
あの時、揺れた後にガソリンスタンドが爆発し
燃え盛る炎の中、やって来た津波が街を流し去り
瓦礫と燃えかすだけになってしまった
こんなところで客待ちしていて客なんか来るのか
周りには取材で来ている僕らの車とカラスしかいない
思っていたら
一台のバスがやって来て、降り立ったおばさんがタクシーに乗り継いだ
そう
灰になってもここは
〝駅前〟なのだ
タクシーが去ったロータリーは
気配だけを残して
燃えかすになった自分に馴染めないでいる
振り返っても振り返っても何もない場所
どこへ出発しようか
バスはもうやって来ない
(岩手県山田町駅前で 2011年8月)